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大阪高等裁判所 平成7年(ラ)932号 決定

抗告人(被告) 明治生命保険相互会社

右代表者代表取締役 羽賀博之

同代理人弁護士 上山一知

相手方(原告) 江原こと 白英子

主文

原決定を取り消す。

本件を東京地方裁判所へ移送する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状(写し)に記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  本件につき、抗告人主張の専属的合意管轄の定め(保険金の請求に関する訴訟については、原則的に抗告人の本社または保険金の受取人の住所地と同一の都道府県内にある支社ないし最寄りの支社の所在地を管轄する地方裁判所を管轄裁判所とし、例外的に契約日から一年以内に発生した事由に基づく保険金の請求に関する訴訟については抗告人の本社の所在地を管轄する地方裁判所のみを管轄裁判所とする旨の定め)が存することは、一件記録上明らかであり、そのこと自体は相手方も争っていない。

これによれば、抗告人の本社の所在地(東京都)を管轄する東京地方裁判所が本件についての管轄裁判所となるところ、相手方は、右管轄の定めの無効を主張するが、右管轄の定めには相当の合理性があり無効とまでいえないことは原決定に示されているとおりであり、相手方の右主張は採用できない。

2  相手方は、仮に、右管轄の定めが無効でないとしても、①本件は、保険金の支払い(金銭債務の履行)を求める請求であるから、相手方の住所地が義務履行地となり、右住所地を管轄する京都地方裁判所が、義務履行地の裁判所として管轄権を有する(民訴法五条)、また、②本件の保険契約の締結、保険料の集金等の業務は京都支社管内で行われていたので、本件は抗告人の京都の事務所又は営業所における業務に関するものとなり、この点からしても京都地方裁判所に管轄がある(民訴法九条)旨主張し、これを前提として、本件を東京地方裁判所に移送すると著しい損害または遅滞を生ずるおそれがあるから、民訴法三一条の趣旨にのっとり移送されるべきではない旨主張する。

しかし、相手方が本件で請求の根拠としている各保険契約の約款によれば、保険金は抗告人の本社で支払う旨定められていることが明らかであり、これによると右保険金支払い義務の履行地は、抗告人の本社がある東京都ということになるから、相手方の右義務履行地に関する主張は理由がない。

相手方は、右約款の定めを有効とすると、前記専属的合意管轄の定めを持ち出すまでもなく、実質的に専属的合意管轄を定めたのと等しいことになり、これでは遠隔地の居住者には、紛争の解決を初めから断念させることになり、著しく不公平であるから、右支払場所に関する約款の定めは無効と解すべきである旨主張する。しかし、保険契約者が全国的範囲に及ぶことが予測される生命保険の性質上、保険金の支払いに関する決定権を本社に留保し統一的な処理を行うために右のような定めをすることには、一応の根拠と合理性があると考えられ(保険契約者との関係からみて、より妥当な定めの仕方があるのではないかとの問題があることは別論である)、殊に、前示のような原則的な管轄の定めがある本件のような場合、右支払場所に関する定めがあるからといって、当然に保険契約者の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起する余地が全くなくなる訳でもないことを考慮すると、右支払場所に関する定めを相手方のいうように無効とまで断ずるのは相当でない。

また、本件で問題になっている各保険契約を取扱ったのが、京都地方裁判所の管轄区域内にある抗告人の支社ないし営業所であったこと、また、抗告人の支社ないし営業所が保険契約の締結や保険金の支払いを独立して行う権限を有していたことを認めるに足る資料もないことからすると、民訴法九条を根拠とする主張も理由がない。

そうすると、京都地方裁判所に管轄権があることを前提とする相手方の主張は、その余の点の判断に及ぶまでもなく失当といわざるを得ない。

3  以上のとおりとすると、本件訴えは、東京地方裁判所へ移送されるべきであるから、これと結論を異にする原決定を取り消し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 竹原俊一 髙山浩平)

〈以下省略〉

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